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鉄工街から飛び立った浮遊砦。風を受け、どこかへ走りゆく。

雲のまにまに、ときおり顔を見せる午後の太陽。
やがて砦は、耶呆島の一端にさしかかる。

大きな町があった。町は大きいが、大きな建物は見当たらない。住宅ばかり。
家々はどれもよく似ていた。色違いの屋根、けれど同じような造りの二階家が軒を連ねている。
どこかの都市のベッドタウンなのかもしれない。
見分けのつかない家々に住むは、没個性のつまらない住人達か。それとも・・・

「どういう町?」
櫓を登ってきた御津流。手すりに留るクチダケ鳥に並び、町を見降ろした。
「見たとおり、フツーの町や」
「それにしては、なにか思うところがありそうな」
「あら、あたり。この町・・・ちっと前、天災があってな。善意之天災、ゆうてな」
御津流は、まだ知らない。
「まあそれはええけど。どうせこの町、回復めっさ早いし。みんな、そんなこととうに忘れとるわ。けどな・・・」
クチダケ鳥がうじうじ話だしたら最後。
「うちはいろいろ考えてん。うちの知り合いにラブリ~な兎さんがおって、その知り合いに牛飼い男はんがおって、彼モーええこと言うとったなぁ。善とはなんやろな、と」
その話の、まあ長いこと暗いこと。
「けど、うちの考えはまた違うねん。優しいに本当とか適当とか嘘とかあるんやろか。あの天災みたら、考えずにいられんわ・・・」
御津流はそっと席を外した。

クチダケ鳥の陰気な思考が、砦の地場に作用したらしい。
その夜はみな、優しさがどうの善がどうのという話題に吸い寄せられ、ひとしきり語り明かした。

海風が腕組みする。
「『偽善は少なくとも悪ではない』て聞いたことあるけど。めがっさ名言だねー」
智庵が黙想する。
「アカルマとヴィカルマと説教族の相関性を考えてみます。私も善業積まなくては
御津流が閃く。
「受け手がありがたくなくてもありがとうと言うのは・・・そっか、優しさカウンターだ!
クチダケ鳥が額をカリカリ掻く。
「優しさ・・・送り手側の気持ちを優先するか、受け手側の評価を優先するか、そこがむつかしぃねんな」
キィがポケットを探る。
「非常に難しいですね。互いの歯車が咬み合わなければ・・・」
チィン!という金属音。
キィのポケットから、なにかがたくさん転がり出てきた。

「ケケ殿とお会いした街で、拾ってきました。おもしろいでしょう」
歯車だ。大きさ、材質、形状。似ているようでいても、どれひとつ同じでない。
硝子細工の歯車をひとつを手に取り、智庵が言った。
「これに心惹かれます。ところで。どうおもしろいのですか」
キィは黒光りする歯車を手に取った。
「形状、材質、大きさ。それぞれに咬み合わせ、つまり相性があるのです。たとえば・・・」
海風が察した。歯車の山に、フッと息を吹きかける。
歯車が次々と宙に浮き上がる。

「この鉄の歯車。相手も鉄の歯車だった場合、相性は両極端に二分される。歯車の形状が同一で噛み合わせが良ければ、相乗的に力を発揮できるという相性。歯車の形状が異形であれば、常に火花を散らす相性」
ポンと放ったキィの歯車が、スッと智庵の歯車に飛び寄る。
智庵の手の中の歯車が、繊細に震えた。
「智庵殿の硝子の歯車は、脆い。形状が同一なら良いが、相手が異形だと壊れてしまう。片方が壊れてしまっては、交流の糸口は掴むことは不可能でしょう」
「壊れるのはいやです。お引き取り願います」
智庵は硝子の歯車を、そっと掌にしまった。
鉄の歯車が、相手を探し宙を漂う。と、白く濁った不思議な材質の歯車がスイと近づいた。
「それはシリコンの歯車。柔軟に圧力を受け止めます。常に柔軟に対応することで、逆に相手を手玉に取ることもできる」
キィは続けて、隣の海風になにごとか耳打ちした。
うなずく海風。宙に人差し指を立て、タクトを振る。
たくさんの歯車が、一斉に回転しはじめた。相手を求め、ワルツを踊るように空をさまよう。
あちこちで、チィン!と怜悧な音が響く。そのまま噛み合う歯車もあれば、すぐに離れるものも。
キィが空の一点を指す。三つの歯車が見事に咬みあい、高速で回転していた。
「歯車の相性自体が良くとも、接点に於ける進行方向が合わなければ衝突します。そういうときは、第三の歯車が間に入ると解決できる
御津流が苦笑いする。
「間の歯車、かあ。ペースが遅い僕は、三人以上いると置いてきぼりを食うよ」

と。空間のかたすみから、呟くような声がした。
「第三者の歯車・・・一番得なのは『大気の歯車』かも。いや、『大気の歯車』は間に割り込まないのか」

えっ? と振り仰いだ五人の頭上に、不思議な歯車が浮いていた。
透き通っている。輪郭だけが、空にくっきり浮かび上がり。
材質は・・・シリコンのような、硝子のような、大気のような。
「誘結印の生産工場から来ました。みなさんのお役に立てるなら嬉しい」
鉄工街からこっそり乗り込んでいたらしい。
クルクル回りながら、不思議な歯車は「Zeta」と名乗った。


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穏やかな丘陵地帯。濃淡うねる緑の大地に、浮遊砦の丸い影。

人影のない静かな土地に、ちょっと降りてみようとキィが促した。
「どこかを基点にしないと。フワフワ浮いているだけでは旅の道が描けません」
クチダケ鳥がウーンとクビをひねる。
「基点はええけど、【穴】の近くはイヤやで。うちは超がつく平和主義者やねん」
智庵がまじめに返す。
「それは存じませんでした」
「ほんまやって。みんな違ってみんないい、とか言って済ませたいのう」
現実にそう言って済ませられるなら、この旅は始まらなかった。ボヤキである。
智庵は淡々と返す。
「こちらが戦いたくないと一方的に思っていても、攻撃する人はしてきます。破壊、脅威、恐怖、戦い・・・それが異質のものとの出会いにおける本質
キィが太陽の方角を指差した。
「近くに街がある。とりあえず、そこへ行ってみましょう」

正午前。浮遊砦はひとつの街の上空に入った。
街のあちこちから、灰色の煙が上がっている。細く入り組んだ路地。町工場がひしめている。鉄を切る音、溶接する音、塗装の匂いがここまで上がってくる。街全体が鉄工所という趣だ。

街はずれに砦を停泊させ、一行は街に入った。
どこかで昼食をとろうと、街の大通りに来たところで、海風が声を上げた。
なんだあれ!?
路面電車が走っていた。タダの電車ではない。
外装に、人の目が無数に浮き上がっていた。こちらをじっと見つめ続けている。
「ひゃー、うちは目ぇは苦手や」
クチダケ鳥は羽で自分の目を被ってしまった。
キィと御津流は興味深げに見ている。海風はふき出した。
「妖怪だな、ありゃ。こういうの大好きー」

だしぬけに、誰かの声がした。声はとうとうと語りだした。
「通常の美術作品ならともかく、公共交通機関の車両にまさかこんなものが描かれるとは、ほとんどの人にとって『想定外』の出来事でした。さまざまな反応がありました。私はその反応を導くメカニズムに着目したい。けして鉄っちゃんネタを語りたいわけでは、いや語りたいのですがそれだけを語りたいわけでは・・・」

驚いて振り返った五人の後ろに、男が立っていた。
いや、男かどうかわからない。
声は確かに男だ。直立している駅長風体の制服も男物だ。帽子の位置からして、背格好も男らしい。だが服の中身が、ない。
御津流が言った。
「もしもし、体が透けてますよ。大丈夫ですか」
男の帽子が揺れる。笑っているらしい。
「私には、あなたがたの体が『塗りつぶされている』と見えますよ。大丈夫ですか。・・・他者認識とは自分を映す鏡。あなたが見る私、私が見るあなた、あなたと私の他者認識が、私とあなたの自己認識を揺さぶる・・・」

呆気に取られる四人を尻目に、クチダケ鳥がケケ!と高く鳴いた。
「あんさん、体は涼しげやのに、語りは猛烈に暑いねぇ」
男の帽子が猛烈に揺れている。爆笑しているらしい。
クチダケ鳥は、羽元から誘結印を取り出した。
「な、な、うちらの砦に来てくれへん? 気の乗ったときでええから。これ置いてくわ」
白い手袋がぬっと伸びてきた。誘結印を受け取る。気が乗ったらしい。
「お名前は?」
智庵が訊いた。
「どうとでも。しょせん仮の名です」
あっさり涼しい返事に、クチダケ鳥がまた高く鳴いた。

「ケケ!」


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